CHAPTER 03

科学と成分

バターは「水中油型乳化物」ではなく「油中水型乳化物」だ。80%以上の乳脂肪の中に、微細な水滴と空気が分散した複雑な構造を持つ。この独特の物性が、バターに他の油脂にはない独特の口溶け・風味・機能性をもたらす。

バターの基本成分

法定成分規格(日本)

乳脂肪分80.0%以上
水分17.0%以下
無脂乳固形分約1.3%
食塩(有塩の場合)2.0%以下

バターの物理的特性

融点28〜33℃(β'型)
煙点150〜175℃
比重(20℃)0.911 g/mL
pH6.1〜6.4
水活性(Aw)0.98〜0.99
屈折率(40℃)1.4560〜1.4580

脂肪酸組成

パルミチン酸(C16:0)飽和
28%
オレイン酸(C18:1)不飽和
27%
ステアリン酸(C18:0)飽和
12%
ミリスチン酸(C14:0)飽和
10%
酪酸(C4:0)飽和(短鎖)
4%
その他混合
19%

※ 値は季節・飼料・品種によって変動する。グラスフェッドバターはオメガ3・CLAが増加する傾向がある。

乳脂肪の結晶多形

バターの食感・口溶け・スプレッダビリティは、乳脂肪の結晶構造(多形)によって決まる。同じ化学組成でも、冷却速度や温度によって異なる結晶型が生成される。

α

α型(アルファ)

安定性:不安定 | 融点:17-23℃

急速冷却で生成。六方晶系の結晶構造。融点が高く、ザラザラした食感になる。

β'

β'型(ベータプライム)

安定性:準安定 | 融点:23-29℃

最も望ましい結晶型。斜方晶系。なめらかな口溶けとクリーミーな食感を生む。製菓に最適。

β

β型(ベータ)

安定性:安定 | 融点:29-35℃

ゆっくり冷却・長期保存で生成。三斜晶系。粗い結晶でザラつきが出る。高融点で口溶けが悪い。

栄養成分表(100gあたり)

栄養素100gあたり
エネルギー745 kcal
脂質81.0 g
飽和脂肪酸50.4 g
一価不飽和脂肪酸21.1 g
多価不飽和脂肪酸2.6 g
コレステロール210 mg
ビタミンA800 μg
ビタミンD0.8 μg
ビタミンE1.5 mg
ビタミンK215 μg
水分16.2 g
タンパク質0.6 g

※ 日本食品標準成分表2020年版(八訂)より。有塩バターの値。

酪酸(ブチリン酸)— バター風味の秘密

バターに特有の風味を生み出す最も重要な成分のひとつが酪酸(ブチリン酸、C4:0)だ。「butter」の語源はギリシャ語の「boutyron(牛のチーズ)」だが、酪酸の英名「butyric acid」もここから来ている。酪酸は全脂肪酸の約3〜4%を占める短鎖脂肪酸で、バター特有の甘い発酵香の主要成分だ。

近年の研究では、酪酸が腸内環境の改善・大腸がん予防・抗炎症作用を持つことが明らかになっている。腸内細菌が食物繊維を発酵させて酪酸を生成することも知られており、バターの酪酸は腸上皮細胞のエネルギー源として直接利用される。発酵バターでは乳酸菌の働きにより酪酸含量がさらに高まる。